2007.11
(31)忘筌
尺八を巧く吹きたいと思います.技術を磨きたいと思います.豊かな音色で,きっちりしたピッチで,旨いリズムで,魅力的な旋律を紡ぎ出したいものだと思います.
けれども,本当は巧く吹くことが目的ではありません.たとえば,自分の声のように自然に歌い,謡いたいと思います.いや,声も要りません,ただ息をするように自然にありたいと思います.いやいや,息だって要りません,ただ祈るように,いや祈りそのものになってしまいたいと思います.いつかそうなれるためには,とりあえず技術を磨くしかありません.けれど,たぶん,そうなってしまえば,もう技術に拘ることもなくなってしまうのでしょう.尺八そのものは所詮道具なのですから,最後は,尺八そのものにとらわれることはないのだろうと思います.
少し大袈裟な話になりました.こんなことを言いたいのではありません.実は,「着物話し」のネタが尽きてしまったのです.
ふと気付くと,「着物話し」のネタを探すために着物を着ようとするようなこともありました.これは本末転倒です.ネタが尽きるのは当然で,着物を着るなんて本来は日常生活の一部であり,日本人なら元々誰でも当たり前にしていたことです.私にしても,しばしば着物を着ているうちに,特段新たな感慨もそうそうは起こらなくなったし,とりわけ,薀蓄が次から次へと沸いてくる道理はありません.先端技術の開発をしているわけではないのですから.
このシリーズ,休み々々とは言え,連載を始めてなんと丸4年を過ぎました.でもここ暫く,ネタ切れで,連載も終わったような続いているような,中途半端な状態でした.これはいかにも潔くない.ここは,一先ず筆を置くこととします.長い間お付き合いいただき,またいろいろ反応もいただき,有難うございました.でも,何か面白い話題が見つかった時は,番外編とか補遺とかとして書かせていただくかも知れません(潔くないですね).
いえいえ,ついでです.本音を白状してしまいます.実は,着物というキーワードに囚われるのが,少し苦痛になってきたのです.もちろん,着物を脱ぎ捨てるわけではありませんよ.ただ,着物々々と頑なに拘るのではなく,自由に,着られるものを,着られるように着ればいいかな,と思っています.会報の埋草も,もっと自由な話題で,いろいろ書いてみたいとも思い始めたのです.
*最後に,裏の事情も明かします.実は,それでもまだ少しは残っていたネタの断片の入っていたファイルを,うっかり消してしまったのです.そう,パソコンの見事な操作ミスでした.え~い,パソコンなんて嫌いだいっ!