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虚無僧の装束とその調達

虚無僧をするのに必要な装束とその調達方法などについて説明しておきます.

ただ,ちょっと難しい問題があります. 虚無僧を,宗教行為あるいはそれに類するぎょうと考えるか,パフォーマンスやいわゆるコスプレなのか,ということです. ここでは,その中間くらいの立場で書いておきます. 私自身は,パフォーマンスとしての楽しみもありますが,でも,坐禅や読経の続きとも思っています. 本格的な雲水の修行をしたことはありませんが,雲水の托鉢行の真似ごとのつもりでもあります.

  1. 尺八
  2. まず,尺八はあたりまえですから,特に書くことはありません. 一緒に歩く人と長さを合わせればOKです.

  3. 天蓋
  4. なにはともあれ,天蓋てんがいがなくては虚無僧には見えません. 普通の人の持つ虚無僧のイメージは天蓋だけで,尺八よりもインパクトがあるのかも知れません. しかし,本当の虚無僧は外で托鉢をする時以外は天蓋は被りません. 以前,「喪われた道」というドラマに出てくる虚無僧のエキストラをしましたが,その中で,虚無僧たちがお寺の本堂に正座してみんなで尺八を吹く場面がありました. その時,全員,天蓋を被っていましたが,あれはお話の都合上,顔が写ったら謎解きにならないのでやっていたまでで,嘘です.

    天蓋には,藺草のものと籐のものがありますが,藺草を使っている人が多いようです(私も藺草です). しかし,藺草は変形するという難点があります.

    天蓋は目白で売っています. 同じものが,浅草の芝居の道具を売っている店を探すと見つかるかも知れません. また,四谷の畳店で売っているのを偶然見かけたこともあります. インターネットでもタタミワールドというところで買えるようです. また,木南堂というお店では,天蓋の他,絡子(袈裟),着物,その他の小物も扱っているようです.

    天蓋を買うとき,五徳ごとくがちゃんと付いていることを確認してください. 五徳は,火鉢に薬缶などをかけるのに使うものですが,そのような形をした,天蓋の中で頭を支える部分です.

    天蓋を被る前に,頭には手拭いを巻いておいた方が,天蓋が滑ったりしなくて,具合が良いようです. 剣道の面を被る要領でしょうか.

  5. 絡子(袈裟)
  6. たとえ少々怪しいとは言うものの,虚無僧も「僧」です. 僧であることを示すのは,袈裟です. 袈裟は元々,お釈迦様も着ていたインドの僧の衣です. 虚無僧の普化宗は禅宗(臨済宗・黄檗宗,曹洞宗)の一派ですから,禅宗様式の袈裟を着けます. 禅宗の僧侶が外を歩く時は,大きな袈裟ではなく,小さい略式の袈裟をします. これを絡子らくすといいます.

    袈裟は本来,佛弟子になった時に師僧から与えられるものですが,虚無僧ではそうはいきません. 目白などで売っているインチキな袈裟で我慢するしかないかも知れません.

    しかし,本物の絡子をなさっている方もたくさんおられます. でもほとんどの虚無僧は,実際に僧籍に入っているわけではないでしょうから,どうやって手に入れたんでしょうね. 私自身は,得度(在家ですが)させていただいた時に,絡子をいただきましたので,それを虚無僧にも使っています. ただ,入門程度の者に与えられる絡子は,地味で,イベント虚無僧にはイマイチです.

    実は,法衣店で絡子を売っていただくことは可能なようです. 以前,浅草・稲荷町にある曹洞宗の法衣店で,時々虚無僧さんからの注文があると伺ったことがあります. たいてい数万円以上の金襴緞子の絡子をお求めになるとか.

    私も今回,法衣店で絡子を新調してみました. インターネットで探して,京都の法衣店(臨済宗の法衣店は東京周辺には無いようです)から取り寄せました. 絡子にも夏用・冬用がある,ということを初めて知りましたが,顕紋紗(けんもんしゃ)のものなら合物(ようするにスリーシーズン)に使えるとのことです. 18500円でした. 修行もしていないのに,見かけだけは一段上がったようで,イベント虚無僧とは言え,どうも後ろめたいですね ....

    本物の絡子と虚無僧用として売られているものを比べると,確かに虚無僧用の方が使いやすいようです. 本物はサオの部分(首に掛ける紐のような部分)が長すぎて,安全ピンでもなければいい所に留まっていてくれません. それに対して虚無僧用のは,ちょうどいい長さにできています.

  7. 着物・帯
  8. 虚無僧は本来,絹のような立派な着物は着ません. 木綿の単です. 色は,白か黒の無地. なお,紋は付けません(そもそも,天蓋で顔を隠しておきながら家紋を付けたんじゃ,矛盾ですよね). 紋付の場合は,わざわざ紋を消してしまいます.

    私は最初,浅草の男の着物専門店ちどり屋で買った,黒のポリエステルを着ていました. たしか,1万円ちょっとでした. しかしポリエステルは通気性が悪くて,暑くて(一方,冬には寒い),とても着ていられません. そこで,とくに夏は,麻の白を着ています. これは,法衣店(真言宗だったかな)で買ったもので,お坊さんが衣の下に着る白衣びゃくえです.

    帯はなんでも構わないと思いますが,白か黒の上に締めるのですから,派手なものはおかしいでしょうね. 白っぽい献上柄あたりで問題ないと思います. 生地は,汗になることも考えて,上等な絹ではなく,木綿でしょう. あるいは,帯の初心者には,ポリエステルが意外と結びやすいかも知れません.

    なお,着物の下には襦袢が必要です. 本来なら長襦袢を着ますが,まあ,その辺はどうでもいいでしょう. 汗になることを考えると,半襦袢とステテコの組み合わせがいいと思います. 夏は暑いから,ランニングシャツの上にいきなり着物を着るという虚無僧さんはたくさんいます. ただし,着物の襟から下着が見えるようなTシャツの類は駄目です. 最近,肌襦袢に半襟つけた「ウソツキ」というものが売られています. これが便利かも知れません. なお,白い着物の下に着る長襦袢は,やはり白でしょう. しかし,白の長襦袢は普通の呉服店にはないでしょう. これもやはり,法衣店が頼みです.

    着物を着つけるのには,腰紐を用意しておいた方がいいですね. それと,安全ピンもなんやかやと便利かも知れません. 袈裟をちょうどいいところに留めておくのにも便利です.

    どうせ下着は見えないから関係ないですが,私はやっぱり,たとえイベント虚無僧でも,虚無僧するときは褌ですね.

  9. 偈箱
  10. 虚無僧が托鉢の時に胸の前に掛けている箱を,偈箱げばこといいます. いただいたお布施を入れる箱です. 偈箱の表には「明暗(みょうあん)」と書かれることが多いようですが,それは,明治時代に虚無僧が復活した時に明暗寺みょうあんじの「明暗」と書いたのが通例になってしまっただけのことで,それに限ったことではありません. 各々の寺の名前などを書きます. 国泰寺の妙音会では「妙音」などと書いていますし,私は「無孔笛」と書いています.

    偈箱も目白にありますが,日曜大工で作れば十分です. 白木でも黒く塗ってもいいと思います.

    偈箱ではなく,頭陀袋でもいいようです. 頭陀袋の場合は,黒でしょうね.

  11. 手甲・脚絆
  12. 手甲・脚絆は必須ではありませんが,していると様になります. お祭り関係の店(浅草には何軒かあります)で手に入ります. 巡礼関係の用品を売っている店にもあります.

    本気で虚無僧で歩くとなると,結構疲れます. その場合は,脚絆は実際に役立ちます.

  13. 履物
  14. 普通のお坊さんと同じように,白鼻緒の雪駄せったか下駄を履きます.

    雪駄は,1000円くらいのビニールのもので十分です. ただし,買ったばかりのものだと鼻緒が馴染んでいませんから,特にビニールだと硬くて,痛くて歩けなくなってしまいます. なれておくことが大事です.

    もっと本格的にやるのなら,雲水さんのように草鞋わらじということになりますが,そこまでやっている人を見たことはありません.

    あるいは,白い地下足袋というのも,悪くありません. なお,地下足袋で本気で歩く時は,ちょっと大きめのサイズを入手し,必ず厚手のソックスなど(足袋ソックス)を履かないと,豆が出来てえらいことになります.

    雪駄や下駄で履く足袋は,白です.

  15. 数珠
  16. 数珠は虚無僧には必須ではないようですが,数珠は仏教徒の印の一つでもありますから,私はたいていは数珠を携えています. 108珠の数珠は,首に架けたり,腕に巻きつけたりしています. なお,数珠の形式は宗派によって異なります. 私の場合は,禅宗(臨済宗)のものを使っています.

  17. 本則
  18. 虚無僧の免許状・許可証のようなものです.

    昔は,雲水さんも許可証がなくては托鉢できませんでしたが,今は法律的にはそういうことはありません. したがって,虚無僧も許可証なしで大丈夫です. ただし,本物の雲水さんには本山から許可証が与えられます. したがって駅前などにいるインチキ托鉢僧は,許可証を持っていません. そういう意味では,たいていの虚無僧はインチキ坊主と同列かも知れません.

    私は,イベント虚無僧でもお布施がいただけそうな時は,一応,虚無僧研究会の会員証を持っていくことにしています.

  19. 扇子(朱扇)
  20. お布施をいただく時,直接手で受け取ってはいけません. 扇子(朱扇,夏扇)を半開きにして受け取り,それを偈箱に納めます. 扇子はそのためのものです.

    でも,実際,私は扇子でお布施をいただいたことはありません. お布施ということを知っている人がそもそもあまりおられず,お布施して下さる方もつかつかと近づいてきて,いきなり偈箱にチャリーンと入れてくれます. 扇子を差し出す暇もありません.

    そんなわけで,扇子はなくていいと思います. ただ,歩いていて暑くなったときに自分をあおぐ,実用品(朱扇ではなくて普通の扇子)は必要かも知れませんね. なお,朱扇はあおぐためには使いません,念のため.

  21. 印籠
  22. 印籠いんろうとは言うものの,実は携帯用の薬入れです. 従って,そんなに何時でも持っている必要はないのですが,現代のサラリーマンのネクタイと同じで,要するに江戸時代の武士の正装のアイテムだったようです. 虚無僧も元は武士,そんなわけで印籠をつけていたのでしょう.

    つまり印籠はただの飾りですから,無くても構わないと思います(クールビズのネクタイというところでしょうか). 立派な房の付いた印籠をこれみよがしにぶら下げている虚無僧さんもいますが,どうなんでしょうね. お土産物で,葵の紋のついた印籠がありますが,せめてそれはやめましょう.

  23. 刀袋
  24. 尺八を入れる袋です. 金襴などの,ちょっと派手な袋で,立派な房が付いていたりします. 吹くのとは別にもう一本の尺八(替え竹)を袋に入れて,刀のように腰に差します. しかし,一本しか持っていなければ,必要ないと思います. いずれにしても,飾りです.

    私はたまに,ケーナを持っていって,尺八の入っていた袋にケーナをケーナの袋ごと入れて,腰に差します. 意味はありませんが,なんとなく「護身用」.

    2009年07月