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下顎の使い方

初めて尺八を吹こうとすると,もちろん,音が出ないでしょう. 初めての人が尺八を吹くのは,音を出すだけで一苦労です.

そこでたぶん,教則本を読んだり吹ける人のアドバイスを聞いたり吹いている人を見たりして,唇(以下,アンブシュアと言います)の作り方を工夫するでしょう. それは正しいことです. 正しいアンブシュアは,とても大切です. 鏡を見ながら,美しいアンブシュアを作るように心がけましょう.

ところが,鏡の前で綺麗なアンブシュアを作って,いざ,尺八を当てても音が出ないかも知れません. そこで,音が出るポイントを探して,尺八を動かしたり唇の形を変えたりするでしょう. そうしているうちに,ひょっとすると,雑音の混じりの音が偶然に鳴るかも知れません. しかし,その時のアンブシュアは,おそらく鏡の前で作った綺麗なアンブシュアとは程遠いものになっているでしょう.

アンブシュアは大切なことですが,そればかりに気を取られていると,一つ,大切なことを見過ごしてしまいます. それは,意外と教則本などに書かれていないようですが,顎の使い方です.

綺麗なアンブシュアから出る空気流も,尺八のエッジに当たって初めて音になるわけです. その尺八と唇の位置関係はどうやって固定しましょうか. 尺八を下顎に押し当てるしかありませんね. これはフルートだって同じことですが,尺八にはフルートとは違う点があります. それは,下顎を使って尺八の吹き口側の大部分を塞がねばならない,ということです(つまり,下顎も楽器の一部ということになります). そのためには,そこそこしっかり尺八を圧しつけなくてはなりません. 当然,下唇も押されますから,せっかく綺麗に出来たアンブシュアが潰れ,空気流の向きは下向きになってしまいます. この状態で音の出るところを探すと,尺八を随分と倒した形になりますから,もし音が出たとしてもかすれた音になってしまいます(極端なカリ吹き). この時,横から尺八の様子を観察すれば,恐らく尺八の上部(エッジに近いあたり)が唇・顎から離れ,大きな隙間が出来ていることでしょう.

好ましくない尺八の当て方
好ましくない尺八の当て方

こうならないためには,顎の関節を外すような感じで下顎を下にガクッと下げ(これはかなりオーバーな表現です),前に突き出し,ちょうど安定する位置を探します. 前後関係で言えば,上の前歯と下の前歯がちょうど揃うか,むしろ下の前歯が僅かに前に出るくらいの位置です(もちろん上下の歯の間には5ミリ程の隙間を作り,その前にアンブシュアを作ります). このように,下顎がしっかり固定できる状態になっていないと,尺八を圧し付けた時に妙な力が入って,結果的に唇が震えてくる原因にもなります.

上にも書いたように,下顎は尺八の吹き口の下を塞ぐ役目も担っています. ここがぴったり塞がらないと,音は出ません. 顎の下の方は,(人によって程度は違うにせよ)少し出っ張っています. この凸凹したところにそのまま尺八を当てても,ぴったり塞ぐことは困難です(上図参照). まずは上述のように下顎を下に下げるとともに,微笑む時に使う筋肉でたるんでいる部分を左右に引っ張ります. うまい表現ができませんが,髭を剃る時に剃刀を当てる部分を作るような感じです. こうして,できるだけ平らにした部分に尺八をあてがいます. 理想を言えば,尺八が下顎にぴったり貼りついているような感じです.

好ましい尺八の当て方
好ましい尺八の当て方

このようにした上で,アンブシュアから出る空気流が尺八のエッジに沿って流れるようにすれば,.... どうですか,音は出ましたか?

2007年08月